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交感神経および副交感神経中枢は、左右どちらの大脳半球に優位性があるか(lateralizatin:側性あるいは偏在性と訳されている)に関する論文調査

【 交感神経および副交感神経中枢は、左右どちらの大脳半球に優位性があるか(lateralizatin:側性あるいは偏在性と訳されている)に関する論文調査 】

 

右大脳半球交感神経優位説

1)血管への交感神経活動の発現の側性化と頸動脈圧受容器刺激の効果 2009年

 MSNA(筋交感神経活動)を主な測定対象にした研究論文。骨格筋の血流をコントロールする交感神経の働きの左右差から、心血管を制御する交感神経は、右半球優位との結論を導き出している。交感神経節後線維は、細動脈収縮させ、血圧を上げる作用がある。MSNAについての詳細は、運 動時の 交感神経 活動亢進の メ カ ニ ズ ム とそ の 役割 斉藤 満 (豊 田工 業 大学)を参照のこと。

 上記論文内で引用している論文には、手術後てんかん患者に、右島皮質を電気刺激すると、血圧上昇などの交感神経活性化が起きるとの記載あり。

 さらに、右島皮質梗塞(中大脳動脈の枝でしょうね)は、血圧上昇、頻脈を起こすとの記載あり。

2)脳卒中後の自律神経系機能:脳血管事故から30日以上後の手のひら交感神経皮膚反応

SSR(交感神経皮膚反射:発汗を促す反射)の実験から右脳卒中の方が左脳卒中よりSSRの機能が低下していた。右大脳半球が交感神経機能(発汗作用に関する)に優位である可能性がある。

3)自律神経機能の左右差発現 1993-1995年

急性期脳卒中でCheyne-Stokes呼吸の発現,手掌の皮膚電気活動の振幅の低下度が右大脳障害で著しいことを認めた(片山ら)つまり発汗作用という交感神経機能中枢は、右大脳半球優位であるとの報告。

 

右大脳半球交感神経優位かつ左副交感神経優位説

4)自律神経調節と圧反射感度に対する半球の影響 2001年

 てんかん患者を対象に、右大脳半球が、末梢血管の収縮による血圧上昇、心拍数の増加に主として関与し、左半球での副交感神経の優位性とBRS(圧反射感受性:頸動脈圧迫による血圧低下反射)のアップレギュレーション(感受性の上昇)を示しているとする論文。

5)心臓の副交感神経制御における半球の非対称性 1998年

心拍に対する(洞房結節への影響)交感神経機能は右半球、副交感神経機能は左半球に偏在しているとする論文

6)脳卒中後の患者における左半球病変と勃起不全の間の正の相関 2019年

左半球の病変は、勃起の調節に関与する副交感神経系を破壊する。つまり左大脳半球は副交感神経が優位とする報告。

 

左大脳半球交感神経優位説

7ー1)脳 卒 中 患 者 の 自律 神 経 障 害-SSR (交感神 経 皮 膚反 応) と心 拍 変 動 に よ る評 価1999年

上 室性頻脈 は右大脳 半球梗塞 の患者 だ けに見 られ, 左半球梗塞 患者 には存在 しなか ったこと、 心拍変動 の解析 を用 いた報 告で は, 右大脳半球 の脳梗 塞患者 で, 左 側 に比 べ副交感神経 機能 を表 す呼吸性心拍変動 が減少 していたことなどから、右 大脳半球 病変 の障害では副交感神経機能 障害が 強 く, それ に伴 って相対的 に交感神経 が充進す るた め と推 測 してい る論文。

注目:1)と同様に右梗塞は、頻脈(交感神経亢進)という事実から真逆の結論を出していることが面白い。

7-2)左半球の脳血管障害は、起立負荷時に血圧の低下が著しく、心拍数増加が少ない。つまり左半球の障害は、交感神経機能を抑制する。高橋らの報告。(1993-1995年)

 

右腹内側前頭前野は交感神経を抑制、左腹内側前頭前野は、副交感神経活性化説

8)右腹内側前頭前野病変は、感情的な刺激を伴う逆説的な心血管の活性化をもたらします2006年

VMPFC(腹内側前頭前野)が安静時および非感情的で物理的な刺激中の自律神経調節に大きな影響を与えないことを示した上で、VMPFC-R患者において、感情的刺激により交感神経機能がより亢進されることをHR(心拍数)およびBP(血圧)応答から報告している。この結果は、VMPFCの相互作用に対する半球の特殊化と、左側の主な副交感神経の活性化、右側のVMPFCによる交感神経の抑制を示唆していると考察している論文。

 

 参考論文

9)心臓および神経交感神経放電振動パターンに対する片側および両側頸動脈圧反射刺激の効果2003年

 右頸動脈圧反射負荷は、両側刺激と同じくらい効率的であり、RR(心室興奮周期つまり脈の間隔)とSAP(収縮期動脈圧)の変動性の調節において左頸動脈吸引よりも効果的でしたという論文。

 参考に載せた理由は、4)論文との関連です。右頸動脈圧反射は、主として右大脳半球を抑制するのかもしれないと思ったので。

 

まとめ&考察

 そもそも交感神経ー副交感神経の上位中枢である大脳半球あるいはその深部構造に、Lateralization:側性があるのかというテーマは未だ結論が出ているわけではないし、心臓血管機能と発汗や消化管の働き、性機能を一緒くたんに論ずるのは無理がある。とはいえ、調査によって傾向が見えてきたことがある。右の脳血管障害(特に中大脳灌流領域)は、頻脈、血圧亢進を起こすリスクが高まるということです。これを交感神経亢進ととらえるか、交感神経抑制機能の破綻ととらえるかは、今後の研究課題であるとしても、右半球への刺激は、交感神経を興奮させる可能性が高いということです。脳梗塞は、機能廃絶による対側への脱抑制という場合もあるだろうし、梗塞の大きさ、新鮮・陳旧に違いによっては、同側の過剰興奮(てんかん様)ということもあるだろうと思ってます。

 このテーマ主たる目的は、左右のどちらから刺激を与えるのが、適正であるかの研究のヒントになるだろうとの想いからです。

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